ONE BUILDING JOURNAL

ブログマガジン

2025.05.01 UP

現代美術家・舘鼻則孝さんインタビュー ∼ クリエイションの原点から未来へのヴィジョンまで ~ 後編

現代美術家として国内外で活躍する舘鼻則孝さん。その作品は、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館などにも収蔵され、国際的にも高く評価されている。代表作のヒールレスシューズは、今も鮮烈な記憶として留まるマスターピースだ。「ONE FUKUOKA HOTEL(ワンフクオカホテル)」の開業に合わせ、80近い絵画作品を描き下ろし、1体の彫刻作品を収める舘鼻さんに、アートの道を志した必然、ヒールレスシューズのエピソードから、貫いてきた「RETHINK(リシンク)」まで、これまでの歩みを伺う。


壁にかかった絵画作品は、ONE FUKUOKA HOTELに納品されるもの

前編では現代美術家としてのルーツから、代表作であるヒールレスシューズ誕生秘話、レディー・ガガとのエピソード、伝統工芸や伝統芸能とのコラボレーションへとさらに広がりを見せる創作について聞かせてくれた舘鼻則孝さん。

―好きなことをやっていいと言われたら、今と同じことはしない―
常に自分がやるべきことを考え、自分にしかできない活動を模索し続けてきた。その創作活動からは、日本文化や工芸への造詣と想いが透けてくる。

最後にアートとの付き合い方や楽しみ方、福岡へのメッセージまで寄せてくれた。ONE FUKUOKA HOTELでは、ホテルのために制作された舘鼻さんの新作アートを見ることができる。(作品紹介Webページはこちらから)

アートに言語は必要ない



アトリエの一角

現代アートは大きく2つに分かれる、と話す。

「背景に文脈があるハイコンテクストアートと、いつの時代でも楽しめるローコンテクストアートです。マーケットに主導されるところもあるのですが、私はハイコンテクストアートのフィールドで創作活動を行っています。昨今では投機の対象になっている部分も非常に大きいので、それが本来の姿かと言われると難しいところではあるんですが、買い求めてくださることで、生活をアートとともにする方が増えているのはとてもうれしいですね。アートを入口に、工芸が着目されるきっかけにもなります。世界の潮流で言うと、工芸はアートなのかという議論もありますが、日本の過去を振り返ると非常に芸術性が高い要素も多く見受けられます。ただ、もう少し文化背景まで含めて語っていきたいですね。地域性に大きな影響を受けているものですから」

ハイコンテクストアートをフィールドにしながら、「アートには説明の必要がない」と言う。

「文脈があってもなくても、作品に興味を持つきっかけは、何だか色がかわいい、綺麗だと感じてもらえればいい。そのためにも自分の作品は、見るからに難しそうだという印象をなるべく持たれないように意図しています。そうしないと、現代アートはよく分からない、分からないけれど、ものすごく高いという印象になってしまいますから。これって機会損失だと思うんですよね。もっと日本の方に見てもらいたいし、買ってもらいたい。私の場合、結果として逆輸入の形になりましたが、日本では海外で評価された方がいいとする傾向があるので、日本の人たちが自信を持って、自国の技術や文化を後押しできるといいなと思います」

自分にしかできないことを



表参道のアトリエにて

フィールドの中での立ち位置を明確化するために、自分がやる意義があることを探し続ける。自分の背景、大義を見い出せる仕事を求め続ける。

「工芸に力を入れるべきだと思ったのは、日本の伝統工芸が雑貨化し、消費の対象になっていると感じたからです。それだけでは文化や技法は継承されず、技術の発展もありません。20年をかけて全てを作り直す、伊勢神宮の式年遷宮のようなチャレンジをしないと、技術が途絶えてしまう可能性もあると思うんですね。

 また、職人さんが何の仕事をしているのか、何の一部になるものを作っているのかさえ分からないという商流構造に陥ってしまっているのも問題だと思います。技法を用いてクリエイティビティを発揮したり、そのすばらしさを作品で表現したりすることが、元々のやりがいだったと思うんです。

 工芸品をアートの世界に活用する上では、必ずこのクオリティまで押し上げて欲しいと、職人さんにも頑張ってもらっています。何度もやり直してもらうこともあります。品格を取り戻す必要があると思うからです。

 ただ、変化していくことは常です。例えば伊勢神宮の宝物の弓矢には、昔はトキの羽根が使われていたのですが、絶滅したためにカラスの羽根が使われているという話を職人さんから伺ったことがあります。それでも美しいわけで、時代に応じて変化しつつ、時代性も反映しつつ、新しい形で作品を作れるといいですよね」

作品の声明は自ら発する


作家自身の言葉でメッセージを伝えるのは非常に大切なことだと考える。

「作品が生まれた背景を、アートの世界では『ステートメント』と言いますが、声明を発表する感覚です。ギャラリーや美術館で作品が並んでいても、全てが解説されるわけではありません。言葉で語らないと分からない作品がいいかと言われると、それも疑問ではありますが、自分の意見を発信したり、展覧会をディレクションして発表したりすることは、とても重要だと思っています。作品については自分が一番分かっているので、これだったらこういう見せ方やシチュエーションだと、意味が伝わりやすいだろうと考えることができるからです。作品を購入してくださるということには、作家が発信したメッセージに同意したという意味もあると思うので、価値観に共感してくれる人を増やすことにもつながると思うのです」

マーケティングやブランディング戦略も活動の一つと捉え、経済活動として成立させるためにも作品を発表している。

ONE FUKUOKA HOTELのアート



アトリエに揃えるカラーパレットの一部

「ONE FUKUOKA HOTEL(ワンフクオカホテル)」のアート作品には、黄や青、緑など、さまざまな色彩を使用。ホテルの基調色も取り入れ、このホテルに存在する必然性を意識した。暗めの照度も考慮し、コントラストも強くしたという。「ここでしか見れないものにした方が楽しみがありますよね」

アート作品に関連するマグカップやステッカーなども揃う。

「新しいものとして見てもらえればいいと思っています。実は日本の伝統文化が背景にあるというのは、裏話的なこと。入口は、『とてもカラフルだな』『この色合わせがすてきだな』『なんとなく好きだな』で十分。もし興味を持ったら、掘り下げられる仕組みが作れたらとは思いますね。作品を見て疑問を感じたり、尋ねたくなったりするのは、とても重要なことだと思うんですよ。感性が刺激されているのだと思いますから。気づきを得たり、考えに共感できたりすれば、持ち帰ってみたくなるかもしれない。ステッカーをパソコンに貼ってみたりしてもらえるだけでもうれしいですね」

福岡の街の心地よいバランス


まだ数回しか訪れていないそうだが、東京と比べて、地域性が濃い街だと感じている。

「子どもたちが、果たして東京で独自性を見出せるのかと考えます。私自身も、地元の鎌倉なら語れても、今過ごしている表参道や青山は難しいように思います。東京にいると、海外に目を向けて、日本から海外に発信する感覚。国内に向けた視点でも、街の魅力をどう伝え、定義していくか、もっと考えていくべきだと思います。東京にもたくさんの伝統産業がありますが、マーケットが大きく、産業として成立する規模だから特異性にならない、知られていないのは残念ですから。

 福岡は、ここから日本に発信したいという意識が強いですよね。バランスもとてもいい。都市化もされていて、人口もほど良く、マーケットもそれなりに成立する規模で地域性を打ち出せるというのは、国内でも稀な環境じゃないかという気がします。」

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Text_ Fumiko Teshiba
Photo_ Sadato Ishizuka
Edit_ Taku Kobayashi

おわり

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