福岡の中心地、天神に誕生した「ONE FUKUOKA BLDG.」の7階に、世界に繋がるイノベーションの発信基地「CIC Fukuoka」が誕生。グローバル展開をするCICがアジアの2拠点目に福岡市を選んだことで、今後福岡のスタートアップシーンはさらなる進化を遂げていくことが期待されます。
今回は「CIC Fukuoka」の姉妹組織を拠点であるVenture Café Fukuoka(以下、「ベンチャーカフェ福岡」)のディレクター松尾雄介さんに、福岡発のスタートアップや注力しているイベント「Thursday Gathering(以下、サーズデイ ギャザリング)」などについてお話を伺いました。
松尾: 私は高校卒業まで地元の福岡で過ごし、東京の大学に進学しました。街づくりやコミュニティ、地域で活躍する人々に興味があったことから、卒業後はUターンし、福岡市役所に入庁。最初は区役所で福祉の仕事をしていました。
松尾: 2017年4月に福岡市役所内のスタートアップ支援部署に異動したのがきっかけです。ちょうど『Fukuoka Growth Next』ができた年で、私が着任したのは開業の翌日でした。福祉の仕事とはあまりにも違いすぎて、片仮名混じりのビジネス用語もまったくわからなくて(笑) そんな中でも福岡市役所での創業支援を7年近くやってきました。
松尾: 大きな転機はフィンランドのヘルシンキでの経験でした。ヘルシンキ市内でのプログラムに参加して、イノベーションエコシステムについて学んだんです。ヘルシンキ都市圏の人口は福岡市とさほど変わらないのに、世界のエコシステムランキングでトップ50に入っている。なぜだろうと考えた時に見えてきたのが、人のダイバーシティと流動性の高さでした。
松尾: 公務員だった人がスタートアップに転職したり、学び直して研究機関に入って、また公務員になったり。そうした人材の循環を見て、各組織や考え方への理解の解像度の高さが、ビジネスのスピードを上げていくのではないかと考えたんです。自分もそういう人材になって、ゆくゆくは公的機関と民間をつなぐ役割を果たせるのではないかと思うようになりました。
福岡市役所で10年以上働く中で、「もう少し街のイノベーションエコシステムのために役立てることはないか」と考えていたタイミングで、ベンチャーカフェ福岡の取り組みが始まると知り、「チャレンジしてみよう!」と思い、ドアをノックしました。
松尾: ベンチャーカフェの姉妹組織であるCICは、新しいアイデアを世の中に実装させ、社会的インパクトを出していくスタートアップの急成長を応援する場所です。
でも、スタートアップだけでは成り立ちません。既存の大企業や地元企業、投資家の皆さん、大学、そして公的機関も含めて、様々な部門をバランスよく保ちながら、次世代の経済を支える企業を育てていく。CICは言わば、ひよこを大人の鳥にしていくような場所です。
そうした新たなチャレンジを応援していくための拠点として、ワンビルの7階に143室の個室を含む高機能なイノベーションキャンパス「CIC Fukuoka」ができました。福岡の強みであるアジアに近いという立地はもちろん、盛り上がりを見せるスタートアップエコシステム、福岡市の中心部で進む「天神ビッグバン」の目玉施設といえるワンビルのコンセプト「創造交差点」に強く共感したことなどが、CICとしてアジアの第二の拠点を構える決断を後押ししました。
こうした背景を踏まえて、アジアを中心としたグローバルな投資家や企業と福岡のスタートアップや支援者が交わる機会を作りたいと思っています。入居者同士のオープンなコミュニケーションを促すようにと作られた空間が、「CIC Fukuoka」の大きな魅力のひとつです。
松尾: 福岡市は2012年に「スタートアップ都市福岡宣言」を行い、直近の開業率は政令市・東京23区のなかで全国1位となっています。ただ、地方の課題は共通で、情報が足りない、お金が足りない、人材が足りない。それに比べて東京にはなんでも揃っている。でも東京と比較して嘆いていても仕方がないので、どうやって現状を打破していくかということを、みんなで考えていく必要があります。
地方都市は、スタートアップの"高さ"を出していくことが課題です。公的機関だけでは支えきれない部分も多く、民間企業の知恵や新しい人の流れを作ることが大事だと考えています。
松尾: いくつか面白い企業があります。例えば「Tensor Energy(テンサーエナジー)」は再生可能エネルギー発電所のエネルギーマネジメントをAIで行うプラットフォームを開発しています。九州の自然エネルギー特性を強みにしたビジネスですね。
「aiESG(アイエスジー)」はTシャツなどの製品が、製造から販売までの過程でどのくらいのCO2を排出するか、環境に負荷がかかるかを可視化するサービスを提供しています。2025年2月末に行われたグローバルイノベーションコミュニティカンファレンス『The Venture Cafe Global Gathering 2025』のピッチイベント「#Pitch2Tokyo」に福岡代表で登壇し、” CIC Fukuoka Prize”を受賞しました。
こうした社会課題に取り組む企業が福岡から次々と生まれ、実際にビジネスとして成長していくのを見るのは本当に楽しいですね!
松尾: ベンチャーカフェのミッションは"Connecting Innovators to Make Things Happen"。起業家や投資家、教員、学生、企業、公的機関、アーティストなど、幅広いイノベーターたち同士が交差し、繋がることで新たな一歩を踏み出すきっかけづくりをしています。その手段として誰もが無料で参加できる「サーズデイ ギャザリング」を実施しています。
福岡では、昨年11月から毎週木曜日に実施しており、気軽に立ち寄れる福岡の屋台のような居場所にしたいという思いで、オープンで楽しい雰囲気を大切に実施しています。
現在は「Fukuoka Growth Next」を中心に暫定運用中ですが、5月8日からはワンビル6階で開催します。参加者の構成は多様で、学生が10%ほど、またバイリンガルでのコンテンツを提供していることもあり、外国人コミュニティの方にもお越しいただいています。
松尾: 毎週木曜の16時から20時まで、1時間ほどのセッションを3つ行います。内容は週替わりで、スタートアップによるピッチや、登壇者4名ほどのパネルディスカッションや気軽に参加できるワークショップ形式など様々です。ビジネスやスタートアップの話に加えて、デザインやアート、街づくりなど、幅広い世代の方が気になるテーマも取り入れています。
例えば、先日のサーズデイ ギャザリングのテーマは「宇宙」でした。有名ゲームの背景画像が宇宙の衛星データを活用して作られていると聞いて、「これはすごく夢があるな」と思いました。同時に、身近なものが高度な技術と紐づいていることを知る機会にもなりました。
こうしたセッションに加えて、参加した皆様が安心して交流していただけるよう、イベント中のネットワーキングの時間をとても大切にしているんですよ。回を重ねるごとに、常連さんとのちょっとした会話も楽しみになってきています。
松尾: 「Action trumps everything」、「行動こそがすべてに勝る」という言葉を大切にしています。挑戦をすることが大事。でも、それを応援してくれる雰囲気も同じくらい大事だと思っています。
スタートアップの支援がブームで終わっちゃダメなんです。3年や5年で終わるものではなく、カルチャーにしていく。小学生や中学生が「経営者はかっこいい!」と思えるような価値観が根付けば、将来の選択肢も広がります。
松尾: 福岡には30年以上住んでいますが、「福岡じゃないような建物ができた」というのが率直な感想です。象徴的な建物がこの高さとゆとりを持って作られていること自体が、「いよいよ福岡も変わった」と実感させてくれます。
これまでは真っ白な壁やファイルに囲まれて仕事する機会が多かったですが、ここは開放的でアートがあり、ふと空を見上げる余裕がある。デザイン性にも富み、想像力が湧き立つ環境だと思います。ピクセルツリーのような象徴的な作品から「この建物に入ってみよう」と思ってもらえれば、誰もが気軽に訪れられる場所になると思います。
松尾: 行動こそがすべてに勝ります。たしかに、初めの一歩を踏み出すのは勇気が必要です。ベンチャーカフェ福岡では、初めて来た方も温かく迎える雰囲気を大切に「私はここに来ていいんだ」と感じてもらえる場所を作っていきたいですね。
ぜひ一度、「サーズデイ ギャザリング」に足を運んでみてください。皆さんのコミュニティがこの場所での偶然の出会いを通じて、新しい仲間を見つけ、新たな挑戦をする。そんな場所にしていきたいと思っています。
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Interview & Text_ Yumi hyfielde
Edit_ Taku Kobayashi
松尾 雄介(まつお ゆうすけ)
2013年、福岡市役所入庁。主にスタートアップ支援業務を歴任。官民共働型のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」の運営支援、起業家向け海外研修プログラムを担当。また、海外スタートアップ支援機関とのスタートアップ支援に関するMoUを活かし、欧米を中心とした海外展開支援業務やビジネス展開支援やスタートアップイベント参加コーディネートを推進。2024年6月より現職。