1932年の創業以来、北九州・小倉の地で時計と向き合い続けてきた〈小林時計店〉が、ワンビルに店を構えて一年が経ちました。長く地域に愛されてきた老舗時計店で、“今の自分”にしっくりくる一本との出会いについて店長の森田 敏雄さんにお話を伺いました。

〈小林時計店〉の天神店は、実は「継承」から始まったお店です。かつてこのエリアには、〈岩田時計店〉という創業100年近くの老舗がありました。天神コアに入居し、地元の人々の時計を長年にわたって修理し続けてきたお店です。その閉業にあたり、岩田時計店の社長から〈小林時計店〉へ、「お客さまの時計を見てほしい」と依頼が届きました。
「岩田社長と弊社の社長は業界の先輩後輩の仲で、長いご縁がありました。100年近く培ってきた時計文化を、誰かが受け継がないといけない。そう思って、ここワンビルに修理コーナーのある店舗を作ることにしたんです」と森田さん。
店内の一角に設けられた修理スペースには、国家一級時計修理技能士の資格を持つ職人が常駐しています。分解し、洗浄し、油を差し、丁寧に組み直す。その後、数日かけてランニングテストを行ってはじめて、時計をお客さまの手に返せます。「時間を計るものだから、時間をかけて確認しないといけない」という言葉が、この仕事の誠実さをそのまま表しています。
一級時計修理技能士の資格は、北部九州エリアで年間に多くて2?3名しか合格しない、ほんとうに狭き門です。筆記と実技を合わせた試験では、機械式と電池式の2種類の時計を実際に分解・組み立てます。指先の感覚と長年の経験が問われる、職人ならではの世界です。
「洋服と同じで、時計も“好き”を基準に選んでいいと思うんです」と話す森田さん。ビジネスの場では、腕時計が会話のきっかけになることもあり、「なぜその時計を選んだのか」を語れることで、自分らしさを伝えるひとつの要素にもなるのだそうです。
そんな時計選びでまずおすすめしたいのは、シンプルでどんな場面にも合わせやすい一本。冠婚葬祭から仕事、休日まで幅広く使えるモデルを最初の一本に選び、そこから少しずつ好みを広げていくのがおすすめだといいます。
また〈小林時計店〉では、「どんな場面で使いたいか」「どんな暮らしをしているか」を伺いながら、その人のライフスタイルに合った時計を提案。防水性や素材など、日々の過ごし方に合わせて選べるのも、時計選びの楽しさのひとつです。
「せっかくなら長く付き合える時計を選びたい」そんな方におすすめなのが、ドイツ発のブランド〈Sinn〉の定番「556シリーズ」です。ジンらしい機能美を備えながら、高品質とコストパフォーマンスを兼ね備えた代表モデル「556(396,000円)」は、流行に左右されないタイムレスなデザインで、時代を超えて愛される一本。
時・分・秒という時計本来の役割に特化したシンプルなデザインで、無駄を削ぎ落とした美しさが魅力です。200m防水という頼もしいスペックを備えながら、スーツにも私服にも自然になじむシンプルな佇まいは、ビジネスからフォーマルまで幅広く活躍します。
初めての一本には、スイスブランドの〈TISSOT〉が人気です。価格帯は5∼15万円ほどで、品質・デザイン・価格のバランスに優れており、冠婚葬祭から仕事、休日まで幅広く対応できるモデルが揃っています。
「時計は欲しいけど、電池交換が大変そう……」そんな方には、〈TISSOT〉独自の“ライトマスター ソーラーテクノロジー”を搭載したソーラーモデル「TISSOT PRC 100 ソーラー 39MM(74,800円)」がおすすめです。

透明なハニカム構造のソーラーセルをサファイアクリスタルの内側に配置することで、効率よく光を取り込みながら、美しい文字盤デザインも両立。従来のソーラー時計にはない、すっきりとした見た目を叶えています。デザイン性も機能性も妥協したくない方にぴったりの一本です。
毎日着けるものだからこそ、着け心地を大切にしたいという方にはチタン素材のモデルがあります。ステンレスの約半分という軽さで、長時間着けていても疲れにくく、金属アレルギーへの配慮もされているため、肌が敏感な方にも選ばれています。
グリーンやブルーといったカラー文字盤のモデルも、最近じわじわと人気を集めています。仕事中にふと腕元を見たとき、好きな色が目に入る。それだけで少し気分が上がります。さりげなく個性を楽しみたい方に、ぜひ手に取ってみてほしい一本です。
仕事で求められる機能に合わせて時計を選びたい方には、専門職向けのモデルもおすすめです。なかでも印象的だったのが、看護師の方など医療従事者に向けた“パルスメーター付き”モデル「TISSOT ペンダンツ 30.1MM(30,800円)」。

文字盤には赤い目盛りが施されており、15秒間で脈拍を測ることができる仕様になっています。 「仕事道具としての実用性はもちろんですが、そうした機能もデザインの一部として楽しんでいただけます。」という森田さんの言葉どおり、専門的な役割を持ちながらも、どこかクラシックで洗練された佇まいが魅力です。“自分の仕事に合った一本”を選ぶという視点も、腕時計選びの楽しさのひとつかもしれません。

スマートウォッチを愛用している方には、Apple Watch用のバンドやケースも約230種類揃えられています。「スマートウォッチは便利な道具ですが、少し無機質に感じることもありますよね。だからこそ、バンドやケースで彩りを足す提案をしています」

もともと腕時計用バンドメーカーならではの素材へのこだわりや装着感は、既製品とはひと味違う満足感をもたらしてくれます。

森田さんがお客さまにいつも伝えることがあります。「つけてあげてください」という言葉です。「使わなくなると、壊れるんです。なんとなく、道具って使ってこそ生きる気がして。気になって眺めていれば不具合にも早く気づけるし、そうしたら修理してまた一緒に過ごせる。それが、時計を長く使う一番のコツだと思っています」
電池式なら電池が切れたら交換、機械式なら動作が遅くなったり止まったりしたときがオーバーホールのサイン。見積もりから修理完了まで概ね1?2ヶ月ほどかかりますが、職人たちは「どんな時計でも、なんとか直そう」と向き合います。「買った方が安いですよとは、絶対に言わない」と森田さんは静かに、でも熱のこもった言葉で語ってくれました。
取材の最後、新生活を迎える方へのメッセージを尋ねると、「自分の人生の時間を、自分の大好きなもので確認しながら生きられるって最高じゃないか、という好きな言葉があるんです。社会人になると時間の大切さをより感じるようになると思うので、その時間を一緒に刻むものとして、腕時計をぜひ選んでほしいです。」と森田さん。
時間を刻むだけではなく、日々に寄り添い、自分らしさを映してくれる腕時計。新しい生活が始まるこの春、“これからの時間”をともにする一本を〈小林時計店〉で探してみてはいかがでしょうか。
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Interview & Text & Photo_Yumi Hyfielde
Edit_Taku Kobayashi