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2026.11.03 UP

九州初開催「SICF Fukuoka」。若手作家とまちを結ぶ、アート支援の新たな一歩

東京・南青山のアートセンター『スパイラル』が手がける公募型アートフェスティバル「SICF」が九州で初めて開催されました。9月19日から22日の4日間、ワンビル6階のカンファレンスホールには60組の若手クリエイターが国内外から集まり、渾身のアート作品を発表。今回のJOURNALでは、約4,000人の来場者を魅了した展覧会の様子や、スパイラルのキュレーター・加藤育子さんが語るSICFの取り組みなど、あますところなくレポートします。

出展はゴールではなく出発点。「SICF」が大切にしてきたこと。

2000年にスタートした公募型のアートフェスティバル「SICF(スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル)」。主催するのは、東京・南青山に拠点を置くアートセンター『スパイラル』です。

ジャンルや年齢などの条件を設ける公募展が多い中、SICFはそうした制限を設けていないのが特徴のひとつ。若手作家の発掘・育成・支援を目的に、手法やキャリアに関係なく、誰にでも挑戦の機会を用意しています。

そして、会期終了後も出展者の支援に力を注いでいる点もSICFならでは。スパイラル アート事業部の部長で、今回の審査員も務めたキュレーターの加藤育子さんは、その理由をこう話します。

加藤さん:駆け出しのアーティストにとってのハードルは、作品を発表した後の“次のステップ”。学生時代と違って、気軽に相談できる先生や仲間がいなくて孤独を感じたり、外部とのコネクションを見つけられず仕事につながらなかったり…。だから私たちがアーティストに伴走し、作品とともに社会へと送り出して、活動を続けていけるよう支えたいと思っています。“その先へ進む接点”をつくること。それがSICFの役割です。

SICF出展作家をスパイラルの展覧会やショップ、パブリックアートに起用するのも、こうした考えからだとか。時にはキュレーターやバイヤーが相談相手となり、必要に応じて著作権の考え方など実務面のアドバイスを行うことも。作家が仕事として活動の幅を広げ、社会や生活者と密接につながっていくプラットフォームとしての機能がSICFにはあるのです。

九州から4割が参加。自由で多彩な表現、福岡ならではの傾向も!?


そんなSICFの福岡開催が、ワンビルを運営する西日本鉄道とスパイラルの共催により「SICF Fukuoka」として実現しました。国内外から寄せられた応募は200件以上! 審査を経て選ばれた60組が、前半(9月19・20日)と後半(9月21・22日)に30組ずつ分かれて出展しました。

九州からの出展者は全体の4割にのぼり、地元の作家と首都圏などの大都市からの参加者もバランスよく揃ったといいます。また、専門教育を受けずに創作を始めた人や、別の仕事を経てから作家の道に踏み出した人も目立ったようです。

「アートは本来、自由なものです。“専門の知識や技術がなければいけない”という固定観念を少しでも取り払えたのならうれしいですね」と加藤さんも語ります。

表現のジャンルは、絵画やイラストレーション、立体、クラフト、プロダクトに加え、想定以上に存在感を示したのがメディアアート。九州大学芸術工学部があるなど、福岡の学びの環境も関係しているのかもしれません。そしてアジアの玄関口という福岡のエリア性から、中国や韓国からも作家が集い、審査員には台湾・忠泰美術館(Jut Art Museum)館長の黄??さんも加わりました。

ジャンルレスな作品が並び、驚きと関心にあふれた4日間。

ここからは、4日間にわたる展覧会の様子をお届けします。

会場はワンビル6階のカンファレンスホール。各ブースでは作り手本人が来場者を迎え、制作の背景やこだわりを語る場面も多く見られ、来場者は作り手との会話を楽しみながら作品への理解を深めていました。

表現のジャンルは実に幅広く、絵画や彫刻はもちろん、音楽と香りを組み合わせた作品、パフォーマンスと映像を交差させたメディア・インスタレーション、圧縮した造花などを素材にしたコンテンポラリーアートジュエリーまで。







例えば、テキスタイルで表現するIWACOさんの作品(写真上)も、表現の幅の広さを感じさせてくれたもののひとつ。アパレル資材を扱う仕事を経て創作を始め、「生きることを諦めない」をテーマに、布の濃淡や奥行きを生かしながら、幻想的な立体作品に仕立てていました。

同じ6階のSKY LOBBY SQUAREでは、SICFの出展作家による関連イベントを開催。SICF26グランプリのサワイダイスケさんは、おもちゃのような親しみやすさの奥に「火」をめぐる社会の課題と希望を込めた作品を展示。

SICF19オーディエンス賞のTETSUJINさんは、“ほうきギター”で観客参加型のパフォーマンスを披露してくれました。

会期中に「SICF Fukuoka」の授賞式を開催。グランプリに輝いたのは亀山晴香さん(写真下)です。

亀山さんは、イルカの頭を持つ自画像を軸に、自作のぬいぐるみやジオラマ、さらにそれらを撮影した画面への描画を組み合わせたインスタレーション作品を発表。ポップさの奥にどこか不思議な違和感が潜み、かわいさの「お約束」をあえて少し外すことで、見た目をめぐる価値観に問いを投げかけてきます。また、多様な要素をひとつの空間に凝縮する構成力も高く評価されました。

準グランプリは原田綾乃さん、西鉄賞はHIYU HAMASAKIさん(写真上)、スパイラル奨励賞は毛利華子さんが受賞。審査員賞は、猪熊純賞が東絵理さん、鹿児島睦賞が杉谷一考さん、黄??賞が田名網早紀さん、藤原大賞がYOUNGHWA LEEさんに贈られました。

各受賞者には、それぞれ次の活躍の場を用意。グランプリ受賞者は1年後にワンビル館内で作品を展示でき、準グランプリおよび各賞の受賞者は次年度の受賞者展に出展。西鉄賞の受賞者には、西鉄バスのラッピングデザインを手がける機会が与えられます。受賞を新たな一歩として、それぞれの活動が今後どのように広がっていくのか、ぜひ注目してみてください。

アートキュレーターの目に映る、福岡というまちのポテンシャル。

ところで、東京で多くの作家と向き合ってきたキュレーター・加藤さんの目に、福岡の開催はどう映ったのでしょう。まず挙がったのは、アジアとの近さでした。

加藤さん:福岡はアジアからのお客さまも多いですし、物理的に距離も近いですよね。今回もアジアから参加がありました。日本の作家にも、もっとアジアへ出ていきたいという気持ちがあると思うので、人の交流から活動の可能性が広がっていくのはすごくいいことだと思います。

さらに、来場者からも“福岡らしさ”を感じたといいます。

加藤さん:福岡のお客さまは、オープンマインドな方が多いと感じます。ほかの地域では、気になる作品があっても少し距離を置いて眺める方が多い印象ですが、福岡の会場では、気軽に「これ何ですか?」という質問から会話が弾む場面をよく見かけました。来場者の方々が臆せず話しかけてくれるので、作家たちもすごく喜んでいましたよ。アートが好きな方はもちろん、詳しくない方も、作品について知ろうと積極的に関わってくれる姿勢に、地域性のポテンシャルを感じましたね。

天神の商業施設であるワンビルで日頃からアートに触れる機会をつくり、さらにSICF Fukuokaを開催する。その意義について、加藤さんはこう語ります。

加藤さん:目的を持ってアートを見に行くことも大切ですが、買い物のついでにたまたま作品に出会うという、思いがけない接点も大事だと思っています。今すぐ何かが起きるわけではないかもしれませんが、「あのとき、あの場所で、すごいアートを見た」という体験が、5年後、10年後に、その人の感性や選択に影響を与えることもあると思うんです。

加藤さん:毎年この時期になると「SICFが始まるね!」と思っていただけるような、季節の風物詩のような存在になりたいですね。街づくりが1、2年で完成しないように、アートも長い時間をかけて育てるもの。一度きりの“打ち上げ花火”で終わらせず、年を重ねるごとに仲間や来場者を増やしていきたいと考えています。初回の年に子どもだった来場者が、10年、20年後には作家やアートを支える人になっているかもしれませんから。

「SICF Fukuoka」を機に、動き出した次のステップ

SICFの展覧会では、隣り合うブースで作家同士の関係性が育まれ、過去にはSICFの縁で共作につながった例もあるのだとか。ちなみに今回も、会場での出会いが次の機会へと進むサイクルが生まれているようです。

加藤さん:SICFの運営メンバーだけでなく、スパイラルのバイヤーやマーケティングのチームなど、社を挙げて各部署のスタッフが福岡の会場を訪れました。出展者の方に声をかけながら、展示イベントはもちろん、アートフェスティバルやスパイラルのショップなど、いろいろな場所での活躍をバックアップしていきたいと思っています。きっと想像以上に早く、ここから次の展開が生まれていくと思いますよ。

福岡のアートシーンは、今まさに伸び盛り。作品に触れる機会がさらに増えていけば、作家が育ち、見る人の目も育ち、それを支える仕事も生まれていく。この街のアートの土壌を少しずつ耕していきたいというスパイラルとワンビルの思いが、ここから来年、そしてその先へと続いていきます。

きたる11月20日(金)から、スパイラルが演出する「ONE FUKUOKA BLDG. Xmas 2026 produced by Spiral」をワンビルで開催予定です。コンテンツの一つであるクリスマスマーケットで、SICF Fukuokaの出展作家たちの作品に出会えるかも…!? どうぞお楽しみに。

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Interview & Text & Photo_ Maiko Shimokawa
Edit_ Taku Kobayashi


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