ワン・フクオカ・ビルディング(以下、ワンビル)と天神ビジネスセンターの間を通る因幡町(いなばちょう)通りが、7月17日に開通しました。かつて一方通行の車道だった道が歩行者専用道路として再整備され、都心の高層ビルに囲まれながらも中庭を思わせるゆとりある空間へと姿を変えています。今回は、開通式典の模様や開通記念イベントの様子、出店者・来場者の声など、天神に生まれた新名所の一日目を追いました。

今回の再整備で大きく変わったのは、歩行者専用道路としての空間の広がり。道幅がおよそ10メートルから14メートルへと拡張され、中庭空間としての要素がプラス。高層ビルに囲まれた立地でありながら不思議と窮屈さはなく、むしろ頭上が開けている分、のびやかな開放感さえ感じられます。
約110メートルの沿道には30本以上の中高木や花々が植えられ、福岡市が進める「都心の森1万本プロジェクト」の一翼を担う緑豊かな通りに。そよ風が吹き抜けるこの空間には、ワンビルのテナントを含む1階の飲食店がテラス席を設け、緑に囲まれた心地よい特等席が多数登場。※パラソルや木製のテーブル席はイベント用の什器となります。
ちなみに、福岡市の都心部で市道を歩行者専用道路にするのは、めったにない取り組みだとか。過去には、西日本新聞会館と博多大丸・エルガーラの間にある「パサージュ広場」が1997年に完成していますが、それ以来、約30年ぶりの試みだといいます。
7月17日、開通を記念する式典が執り行われ、福岡市の高島宗一郎市長も出席。高島市長は、「市が目指す都市機能と人の温かさが共存する場所、その思いを一つの形にしていただいた」と述べ、日常の憩いや世代を超えた交流が生まれ、多くの人に愛される場所となることへの期待を寄せました。
西日本鉄道の林田浩一社長も、「心地よい中庭空間として、世代を超えて愛され続ける場所となることを願っています」と言葉を添え、これからこの場所に人が集い、交流が生まれていくことへの思いを語りました。
式典に続き、因幡町通りでは2日間にわたり開通記念の特別イベントを実施。冷たいスイーツやドリンクを揃えた「COOL SPOT」には、アイスを手に涼をとる人の姿が。ジュンク堂書店による「STREET BOOK STORE」には、話題の新刊や絵本キャラクターのグッズが並び、通りがかりの人が足を止める光景がそこかしこに。


他にもFUKUOKA EFFECTが手がけた装花のポップアップ、街路灯を彩る福岡の作家による「ART FLAG」も華やぎを添え、歩く人の目を楽しませていました。
イベントの賑わいを支える出店者にも、それぞれの背景があったようです。いちご農家が営むキッチンカー『イシダファーム』のオーナー・石田大輔さんと、糸島のレモネード店『ジョンレモン』のオーナー・コーイチローさんは、プライベートでも親交の深い間柄。石田さんからの声かけをきっかけに、今回の出店が実現したそう。
コーイチローさん:「お客さまとの接点だけでなく、出店者同士のつながりが深まったり、互いにリスペクトが生まれたり、いい刺激を受けましたね」
石田さん:「自分がよく遊びに来ていた天神に今こうしてイベント出店できるのが嬉しい。因幡町通りが、これまでとはまた違った楽しみ方のできる場所になっていけばいいですね」
そして憩いの空間では、思い思いの時間を過ごす人々の姿もありました。
飲食ブースでおやつを購入し、ベンチでくつろいでいた親子に、この場所を訪れたきっかけを尋ねると、ワンビルの公式LINEで開通を知り、立ち寄ったとのこと。変わりゆく天神の風景を、東京に住む友人へ写真付きで報告したそうです。
「天神ビブレや天神コアがあった頃からすると、風景がずいぶん変わったなぁと驚きました。当時は道沿いにスターバックスコーヒーやシアトルズベストコーヒーがあって、どちらかでお茶をして、そのままジュンク堂に行くのが定番の流れでしたね。今は今で、新しいお店が増えて、楽しみも増えたと思います」
この一帯の心地よさの裏には、練り上げられた設計とコンセプトがあります。まちづくり団体「We Love 天神協議会」で事務局長を務める荒瀬聡さんに、その背景を尋ねました。
同団体が本プロジェクトに加わったのは2025年。ワンビルをはじめとする沿道ビルが道路のデザインを練るなか、空間の活かし方や行政との折衝について助言する立場で参画したそう。
荒瀬さん:「人が通り過ぎるだけの道路にするのはもったいない。脇にベンチをひとつ置くだけでもいい。そんな小さな仕掛けの積み重ねで、人が集い、憩い、楽しみが生まれいくはず。ウォーカブルな(歩きたくなる)場所になるよう、私たちからも提案をさせていただきました。平日は天神のワーカーが気分転換の仕事場として、週末は家族やカップルが気軽に立ち寄れる場所として活用されることを期待しています」
また、因幡町通りが織りなす緩やかなS字ラインにも、荒瀬さんはひとつの意味を見出しています。
荒瀬さん:「まっすぐに見通せないS字カーブだからこそ、『この先には何があるのだろう』と自然と好奇心がくすぐられるんですよ。人が歩くときの身体感覚、いわゆるヒューマンスケールに配慮した道筋になっています。一歩進むごとに景色が移ろい、街路樹が枝葉を広げれば、通りにはさらに豊かな奥行きが生まれていく。そんな変化も、この道を歩く楽しみのひとつになりそうですね」
通りに面したワンビル1階のレストラン『THE CONTINENTAL ROYAL&Goh』は、開通日にテラス席をオープン。ここで新たに始まったのが、ワインや日本酒と料理を組み合わせて楽しむペアリングセット。
「ワインに詳しくない人でも、気軽に本格的なおいしさを体感してほしい」と支配人が温めてきた構想が形になり、一杯のグラスに合わせて、シェフが選んだ料理3品をセットで提供しています。
写真は「スパークリングワインと料理3種のペアリングセット」。ペアリングのお酒はワインだけでなく、日本酒も週替わりで登場するという充実ぶり。
明るい時間からテラスで楽しむもよし、店内でゆっくりグラスを傾けるもよし。仕事帰りや買い物のついでに一杯、という気軽な楽しみ方から、じっくり料理とのペアリングを味わう夜まで、その日の気分に合わせて楽しんでみてはいかがでしょう。
明治通りに面し、因幡町通りから曲がってすぐの場所にあるカフェ『THE CAFE』も、開通を契機に新たなプロジェクトを本格始動。それが、音楽、アート、人、感性、会話といった要素を交差させるイベント「ONE SESSIONS」。
「天神のグランドレベル、つまり路面からカルチャーを動かしていきたい」と語るのは、ワン・フクオカ・ホテルのディレクター、東宏輔さん。「ONE SESSIONS」には、ワンビルが掲げるコンセプト「創造交差点」に呼応しながら、実際に人が交わり、なにか生まれる場をつくりたいという思いが込められています。
イベントの中心となるのは、DJを招いた音楽と、注目作家による絵画の壁面展示・販売を組み合わせたプログラム。金曜の夕方から夜にかけて音楽イベントを開催し、偶発的な出会いや新しい表現が生まれるきっかけをつくっています。8月までは毎週金曜に開催し、その後は状況を見ながら継続・拡大していく予定だそう。同プロジェクトの詳細については、また追って紹介しますのでお楽しみに!
隣接するカフェや飲食店ともシームレスにつながり、市役所のふれあい広場をはじめとする周辺のオープンスペースと連動した催しの受け皿にもなりそうな因幡町通り。
日常の憩いの場、世代を超えた交流の場、そして多様なイベントを通して新たな出会いが生まれる場所にもなっていくことでしょう。これからこの通りがどんな賑わいを見せ、新名所としてどう育っていくか、ぜひ注目してみてください。
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Interview & Text & Photo_ Maiko Shimokawa
Edit_ Taku Kobayashi