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2026.07.10 UP

ワインの味はグラスで変わる?〈RIEDEL〉に学ぶ、おうちワインの楽しみ方

グラスを替えただけで、ワインの表情が変わる。にわかには信じがたい話かもしれませんが、同じワインをグラスを替えて飲み比べてみると、香りの広がり方が変わり、味わいの印象が変わり、まるで別の一本のように感じられる瞬間があります。今回はワイングラスの名門ブランド〈RIEDEL〉のショップを訪ね、エリアマネージャーの吉永きみよさんに、グラスがもたらす変化と、おうちワインを豊かにするヒントを伺いました。

グラスは「道具」。RIEDELが機能性にこだわる理由


「本当にグラスで味が変わるの?」という問いは、店頭でもよく寄せられるそうです。結論からいえば、ワインそのものが変わるわけではありません。変わるのは、ワインが持つ個性の「伝わり方」です。グラスの口元の広さや角度によって、飲むときの顎の動きや、ワインが流れ込む位置が変わります。その結果、舌のどこで味を感じるか、口の中での広がり方にも違いが生まれます。



店内に並ぶグラスはどれも洗練されたフォルムを持ちますが、RIEDELが最優先しているのはデザインではなく機能性。「きれいな形だから作る、ということはしません。私たちが考えているのは、そのワインを一番おいしく飲めるかどうかなんです」と吉永さんは言います。

グラスは主役ではない。あくまでも主役はワインであり、その香りと味わいを最大限に表現するための「道具」として存在しているのが、RIEDELのグラスです。

「ワインはおしゃべりしている」グラスが果たすスピーカーの役割

取材中、印象に残ったのが吉永さんの「ワインはおしゃべりしているんですよ。でも、みんな聞こえていないんです」という言葉でした。土地の記憶、気候、生産者の想い、品種ごとの個性。そのすべてがワインの中に詰まっています。けれど多くの場合、その魅力は十分に伝わっていない。「私たちのグラスは、ワインの声を少し大きく届けるスピーカーみたいなものなんです」

吉永さんはさらに、グラスを「眼鏡」に例えます。視力の弱い人が眼鏡をかけると、ぼんやりしていた景色が一気にクリアになるように、適切なグラスを使うことで、ワインが持つ香りや味わいも感じ取りやすくなる。「ブーケのような香り」と説明されても曖昧だったものが、「本当に花の香りがする」と実感できる瞬間が生まれることもあるといいます。

そしてRIEDELでは、ワイナリーに何十種類もの試作グラスを持ち込み、生産者自身が「これが一番おいしい」と感じるものを選びながら開発を進めます。数値では測れない「おいしさ」を追求するために、人間の感覚を中心に据えたグラスづくりが続けられています。

ワイングラスの形には、すべて理由がある

店頭のグラスを見て、「なぜこんなに大きいのだろう」と思う方も多いはずです。その大きさにも、きちんと意味があります。グラスを軽く回してワインの膜を作る動作は、見た目の演出ではありません。ワインは液面だけでなく、グラスの内側に広がった薄い膜からも香りが立ち上ります。ボウルが大きいほど香りが内部に留まり、鼻を近づけたときに豊かな香りとして感じられます。

だからワインはグラスいっぱいに注がず、空間を残すのが基本。大きなグラスは、香りを楽しむための「空間」でもあるのです。脚(ステム)にも役割があります。ワインは温度によって表情が変わるため、ボウル部分を直接持つと手の熱が伝わりやすい。ステムを持つことで、適温を保ちながら最後まで楽しめます。

ただし、「絶対に脚がなければいけないわけではない」と吉永さん。近年は脚のないグラスも人気で、飲むシーンやライフスタイルに合わせて選ぶ方も増えています。大切なのは形式ではなく、自分が心地よくワインを楽しめること。その柔軟な姿勢もまた、RIEDELらしさのひとつです。

ワインビギナーこそ、グラスを試してほしい

赤ワイン用は香りをしっかり広げられるよう大きめに、白ワイン用は冷たさや爽やかな酸味を感じやすいよう小ぶりに。そんなグラスの基本は、ワイン売り場でも目にしたことがあるかもしれません。ただ、白ワインにも樽熟成による豊かな香りを持つものがあるように、ワインの個性に合わせてグラスを選ぶこと自体が、楽しみのひとつでもあります。

「RIEDELはワインのプロのためのグラスだと思われがちですが、実は一般の方にこそ使ってほしいんです」と吉永さん。ワインのプロは経験から香りや味わいを分析できます。でも、私たちはもっと感覚的にワインを楽しみます。だからこそ、グラスの力を借りることでワインの魅力がぐっと近くなるのだそう。

グラス選びに迷ったら、まずは赤ワイン用と白ワイン用を一脚ずつ。吉永さんは「最初からたくさん揃える必要はありません。2~3種類あるだけでも楽しみ方は変わります」と言います。レストランで飲むワインがおいしく感じる理由のひとつも、そのワインに合ったグラスが選ばれているから。自宅でも少しだけグラスを意識することで、ワインとの時間がひと味変わります。

日常の食卓に、グラスをひとつ

ワイングラスというと「高級ワインのためのもの」「特別な日に使うもの」というイメージがあるかもしれません。でも、RIEDELが伝えたいのはもっと身近な楽しみ方です。

「普段飲んでいるワインこそ、グラスの違いがわかりやすいんです」と吉永さん。コンビニやスーパーで気軽に買えるワインでも、グラスを変えると香りや味わいの印象が変わることがあるそうです。お気に入りのマグカップやお皿と同じように、日々の食卓で使ってこそ、その魅力が実感できます。

お手入れも難しく考えなくて大丈夫です。酔った夜は無理に洗わず翌日に回す。拭くときはボウルと台座を反対方向にねじらない。柔らかい布でやさしく扱う。その心がけだけで、長く使い続けることができます。ワインもグラスも、使ってはじめてその魅力を楽しめるもの。購入時にはお手入れの方法をまとめたリーフレットも用意されているので、自宅でのケアも心配いりません。

おうちワインをもっと自由に楽しむために


今回訪れた〈RIEDEL〉のショップでは、グラス販売だけでなく、ワインの楽しみ方に触れるきっかけづくりにも力を入れています。グラス選びの相談ができるほか、同じワインを異なるグラスで飲み比べるイベントやセミナーも定期的に開催。

また店内にはワインの販売コーナーも。オーストリア・ドイツ・九州のワインを中心に、他ではなかなか手に入らない一本が揃えられており、ワインだけを目当てに訪れる常連客も多いそうです。グラスを選びながら、次に飲んでみたい一本を探す。そんな楽しみ方もできます。

「ワインの知識がないから」と身構えなくて大丈夫です。コーヒーカップを選ぶように、自分の暮らしにしっくりくる一脚を選ぶ。その小さな選択が、おうちワインの時間を少しだけ豊かにしてくれます。グラスを替えただけで、ワインの表情が変わる。 そのひと手間が、今夜の食卓を少し変えてくれるかもしれません。

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Interview & Text & Photo_Yumi Hyfielde
Edit_Taku Kobayashi


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