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2025.12.15 UP

ワンビル初のクリスマス。アーティスト・村山大明さんが贈る「つながる」輝きと余韻

1Fグランドロビーに高さ約7メートルのツリーが登場し、連日賑わいを見せるワンビル初のクリスマス。装飾やクリスマスマーケットのプロデュースは「SPIRAL」、メインビジュアルとツリー装飾はドローイングアーティスト・村山大明さんが手掛けました。1Fから吹き抜けへ伸びるゴールドラインと、多様な動物たちの姿は、訪れる人の心を照らし、温かな余韻をもたらしています。今回はアーティスト・村山さんに、クリスマス装飾に込めた思いや制作の裏側を伺いました。



山や森で育まれた原体験。境界のない世界が教えてくれた“調和”の感覚


――幼い頃から自然豊かな環境で育ち、今も山村のアトリエで制作されているそうですね。そうした暮らしが、作品づくりにどのようにつながっていますか?

村山:僕の地元は京都の南丹市。谷間に家があり、四方を山に囲まれた環境で育ちました。鹿やイノシシ、サル、タヌキなどが日中でも現れるほど、野生の生きものが身近でしたね。農業が好きで仕事にした時期もありましたが、昔から絵を描いていたので芸術にも興味があり、進学のために大阪へ。絵を学び始めた当初は、都会の建物など人工物をペン画で描いていたのですが、自然の造形の方が自分にとって心地よく、より創作意欲が湧くと改めて実感することがあって。

そこでやっぱり僕は、自然が好きなんだなぁと自覚したんです。振り返ると、幼い頃に山で感じていた原体験をずっと求めていたのだと思います。山村にアトリエを構え、野生動物や四季の移ろいを観察しながら制作しているのも、そうした流れの延長にありますね。

――村山さんがテーマに掲げる「自然との調和」。その制作のコンセプトに行き着いた背景は?

村山:原点はやはり幼い頃の体験です。山へ行くと、足元の数十センチの範囲だけでも小さな虫や植物が何百と存在していて、よく見るとどれも美しくて力強い。その壮大さと豊かさに強く惹かれました。

また、森の動植物を観察していると、そこには決められた“境界線”がないことにも気づかされます。例えば、木の根が岩を包みこむように伸びていると、どこまでが根でどこからが岩か、見た目では区別がつかなくなる。また、自分の目には小さく見えるものでも、虫にとっては大きな世界かもしれないし、空から見れば巨木さえ小さく見えるでしょう。そう考えると、大きい・小さい、美しい・醜い、善・悪などの基準は、すべて人間側の視点なんですよね。

自然の世界には、そんな“測り方”や“区切り”が存在せず、すべてが混ざり合い、関わり合いながら命がつながっていく。動植物の造形の美しさはもちろん、あらゆる生きものが自由に生きる姿を描くことで、人と自然の関わり合いに少しでも良いつながりをつくれたらと思い、モノクロのペンで動植物を描き続けています。

九州・福岡の動植物たちがのびやかに集う、心を温めるクリスマス装飾

――ワンビル初となるクリスマスのメインビジュアルや館内装飾には、様々な動植物が描かれていますが、海と陸の生きものが同居する様子が印象的です。

村山:そうですね、「魚は水の中」「この動物同士は同じ場所にいない」といった人間が決めた“当たり前”にとらわれたくなくて。自然はそんな枠には収まらないほど壮大で、境界のない自由なもの。だからクリスマスのメインビジュアルでも、固定観念に縛られずに自由に構成しようと、海と陸の生きものが絡み合う姿を描きました。

実は九州にゆかりのある動物もたくさんいるんですよ。ツシマヤマネコ、御崎馬(みさきうま)、ヘラサギ、カブトガニ、ツシマウラボシシジミ(蝶)、そして固有種ではありませんが鹿児島にいるハナハゼ(海水魚)、ツリー装飾にはムツゴロウも潜ませ、各地の多様な生きものを散りばめています。

植物も同様に、福岡市にちなんでサザンカや、赤い実が生るクロガネモチ、梅の花も描きました。探せば探すほど、色々な発見を楽しめると思います。

――クリスマス装飾のテーマ「Intersecting lives, hearts(交わる生命、想い)」には、どんなメッセージが込められていますか?

村山:自分のテーマである「自然との調和」を、どうクリスマスと結びつけるかは正直悩みましたね。僕自身、動物に人間の意図を代弁させたくないと思っているので、“クリスマスっぽい演出”を動物にさせる表現はどうしても避けたくて。

そこで鍵になったのが「線」。

僕の線画は、1本1本の線を緻密に重ねていくことで質感が生まれ、表情を織り成し、命が宿るような作品を目指しています。そして、線はいろいろなものを結びつなげる存在。こうした線の本質が、クリスマスに込められる“誰かを思う気持ち”や“願い”と重なると感じました。



その想いを「ゴールドライン」に込め、線がつながるように、自然界の生きものたちの命も、人々の想いも、ひとつに交わり連なっていく── そんな背景からクリスマス装飾が生まれました。

また、描いている動物の多くがペアや親子で、これらも“つながり”を象徴しています。ゆるやかに伸びるゴールドラインが動植物に交わるメインビジュアルをベースに、クリスマスツリーの装飾も柔らかさやしなやかで動きを持たせるように工夫しました。

――1階入口(明治通り沿い)のショーウィンドウに展示されている立体造形「3-Draw series」も心奪われる作品でした。これはどのように制作しているのでしょう?

村山:「3-Draw series」は真っ白な立体物の表面にペンの線を何層も重ね、キャンバスから飛び出してきたような立体造形に仕上げた作品です。複雑な骨格から、つるんとした質感、モフッとした毛並み、細かな模様まで、いろいろな手触りや質感を視覚的に楽しんでいただけると思います。

ショーウィンドウのインスタレーションは、平面の線描と立体造形がどこで切り替わるのかわからない、2Dと3Dが自然に溶け合う表現を目指しました。この展示は2026年2月頃まで展開される予定とのこと。冬の終わり頃まで、ぜひご覧になってもらいたいですね。

小さな美しさ、自然の尊さに気づくきっかけを届けたい

――今回のクリスマス装飾を通して、見る人にどんな気持ちを感じてもらいたいですか?

村山:僕の創作活動全体に通じることですが、生きものって近づいてよく観察すると、想像以上の造形や質感があって奥深いし、生命力に溢れています。それを知ったときの胸の高鳴りや心動く瞬間を、作品を通して体験してもらえたらうれしいです。

また、僕はどちらかというと“自然の側に立っていたい”という気持ちがあって。作品が見る人の心を豊かにし、そこから自然やそこに生きるものへの尊敬や感謝を抱くきっかけになればと思っています。

人の心を動かすのは、刺激的なものばかりじゃない。本当はもっと身近なところに、私たちの心を豊かにするものがたくさんあるはず。天神の街の中にも小さな生きものがたくさんいて、その場所の生態系を支えています。そういう尊い存在に気づく視点を、このクリスマス装飾がそっと伝える機会となればいいなと思います。



――村山さんのこれからの展望を聞かせてください。

村山:抽象的ではありますが、これからも“自然と人との間をつなぐ”創作を続けていきたいです。街に住んでいる人の中には、本当は自然の中で過ごしたいと思っている人がたくさんいると思いますが、街で働く人たちが社会を支えているのも事実。街も自然も、どちらも人間にとって大切な場所です。

僕はなるべく自然の近くに身を置き、そこで感じたことを作品に落とし込み、街で生きる人に“自由に生きる動植物の美しさ”や“自然の調和”を届けたい。自然と街をつなげるこことが、作家としての自分の使命だと感じています。

1つの作品が完成するまでにはとても長い時間がかかります。でもその時間こそが、生きものと丁寧に向き合う大切なプロセス。これからも自然界の美しい造形や機微、そこから生まれる豊かな感情を、一人でも多くの人に届けていきたいです。

 

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Interview & Text & Photo_ Maiko Shimokawa
Edit_ Taku Kobayashi



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