ギャラリースペースから重要文化財の歴史的建造物まで、さまざまな場所で展覧会を開催してきた舘鼻さんだが、1つのホテルの空間全体をアートで満たすという経験はこれまでになかった。「装飾品ではなく、ホテルの要素の一部となるアート」を、どう作り上げていったのか。
そこにしかない光
対談は、東京品川区のギャラリー「KOSAKU KANECHIKA」で開催された舘鼻則孝展「Under the Sun and Moon」(2024年11月22日 - 12月26日)の会場にて
舘鼻さん:ホテルの仕事は初めてではありません。しかし、「ここに置く作品を探している」とお買い求めいただくのではなく、ONE FUKUOKA HOTELのための新作を作るこのプロジェクトは、とてもやりがいのあるものでした。まだ制作途中の作品もあります。3月のオープンに焦点を合わせて、最後まで考えていくつもりです。
中村さん: ゼロからこの空間のためだけに作ってもらうという、サイトスペシフィックなアートが良かったのです。その空間に捧げるようなものとして。舘鼻さんは空間のスケール感や照明、ゲストはどういう気分でここに来るのか、詳細にヒアリングしてくれました。
舘鼻さん:空間のことを一番分かっているのは中村さんなので、サイズやカラーリングなど、何度もやり取りを重ねました。例えば、そこでしか見られない、そこにしか当たらないような光と、作品が共存することがあるんですよ。また吹き抜けでは、鑑賞者の目線が上から下に動く。それらを最大限生かして、ふさわしい見せ方をしたいのです。
中村さん:レセプションラウンジから客室へと向かうエントランスには、彫刻をお願いしました。雷神感が強く表現された太鼓が連なる唯一の彫刻作品を、最初にアートを意識して欲しい場所に設置してもらいたくて。
舘鼻さん:絵画は空間に馴染み調度品的でもありますが、彫刻には、そこに物理的な物がなくてはならない理由があるわけで、だからこそモニュメントとして成立する意味を持たせる必要がある。そうした観点で言うと、アイコンになるモチーフ、ストーリーを語る上で、とても重要なシグニチャーになるのではと思います。
自然とつながる
中村さん:私の建物は、自然と人間、自然と建築の関係を問うてきたところがあります。日本人が昔から持ってきた自然観は、人間中心主義的な今の社会、世界でこそ必要だと思っています。自然を尊び、人間の側が一歩引いて暮らす感覚、あるいは自然ともっと豊かにつながっていくということを、いつも考えています。
今回も、単にこのインテリア空間にアート作品があったらおしゃれだね、という空気感で作りたくはなかった。このホテルはONE FUKUOKA BLDG.の中で一番高いところですが、この場所の自然、つまり空を見上げ、天を想う。かつての天神信仰にあったような感性をどう作っていくか。決してファッションではなく、非常に精神性の高い、自然と結びつくという意味を持たせたかったのです。
舘鼻さん:私は、創作活動において「RETHINK(リシンク)」という言葉を使っています。過去の日本文化を掘り下げ、どう表現すべきかを考える中で原点に立ち返る。そうすると、地域に根ざしているもの、自分自身のアイデンティティ、育ってきた環境と重なり合う部分があるんですね。東京生まれですが、鎌倉の自然豊かな土地で育ったので、自然の中に存在し、日本人の信仰の対象になってきたものを身近に感じてきました。今回登場する稲妻も、信仰の対象を具現化するために昔から描かれてきたモチーフ。形がないものを形にする、それ自体が信仰作業の意味合いを持っていたのだと思います。
実は見たことがあるもの、身近に隠れているものを具現化して作品に起こしていくことで、何らかの気づきを与えられたらと思っています。私の作品はポップな色使いが多いのですが、作品を通して改めて日本を知る、描かれているモチーフの意味を知るという入口になるよう、鑑賞者の目を引く視覚的要素も作品には必要だと思っています。
中村さんもホテルのデザインに、「紙垂(しで)」のイメージでジグザグ文様を取り入れられていますよね。
中村さん:気づく人は気づくという形ですね。紙垂は、神社の御神木のしめ縄などにあしらわれる神聖な印。結界を表す稲妻を表しているとも言われています。廊下の壁やヘッドボードなど、天神さまらしいモチーフとして隠喩的に、そこかしこに忍ばせています。
私も東京生まれ、鎌倉育ちで、金沢や京都などの古都とも縁が深いのです。
ルーツにある自然と日本古来の神性への敬意が物作りに映し出され、2人の作品を唯一のものにする。後編では、仕事において大切にしているものや、これからどんな作品を作っていきたいのか、ONE FUKUOKA HOTELに寄せる期待について語ってくれた。
Special Thanks:KOSAKU KANECHIKA