福岡で生まれ、育った西鉄とREC COFFEEの親和性
2008年に創業したREC COFFEEは、当初、西鉄薬院駅そばで移動販売のコーヒートラックとしてスタートした。
西鉄にとってなじみの深いコーヒー店であり、また地元発のハイクオリティなスペシャルティコーヒー専門店として福岡のコーヒーファンの間でも絶大な人気を誇る。
天神開発本部・福ビル街区開発部の荒木元太朗さんは、スカイロビーのカフェのパートナーにREC COFFEEを選んだ理由をこう語る。
荒木さん:「コーヒーが抜群においしいということは大前提ですが、それに加え、REC COFFEEさんは福岡でコーヒートラックとして創業され、今や東京、台湾でも展開されるほど成長を遂げられています。ローカルから世界へ出ていく姿が、私たち西鉄に相通ずるものがあると勝手に(笑)感じていましたから、ぜひお願いしたいと思ったんです」
「とてもうれしかったです」と、REC COFFEEのクリエイティブディレクター・中野友希さんは顔をほころばせる。
中野さん:「私たちも天神ビッグバンという大きな事業の中で地元企業として何か貢献できないかと思っていたんです。ぜひ一緒に福岡を盛り上げていきたいです」

企画や商品開発を手がけるREC COFFEEの中野さん

「スペシャルティコーヒーの感動体験を多くの人に届けたい」。REC COFFEEは代表の岩瀬由和さんのそんな思いからスタートした

2023年9月、博多区吉塚に新しいパティスリーブランド「SAISON DES RÉCOLTES (セゾン・デ・レコルト)」と焙煎工場を併設した店舗「REC COFFEE 博多ロースタリー」もオープン
ワーカーの活力に。人と人、文化と文化をつなぐ1杯
REC COFFEEは、個性豊かなシングルオリジン(単一農園のコーヒー豆)を数種類かけ合わせた、多彩なオリジナルブレンドコーヒーに定評がある。
それぞれの豆の持ち味を引き出し、かけ合わせ、想いやストーリーを表現するのがREC COFFEEのブレンドだ。
スカイロビーで提供するブレンドのコンセプトは、ずばり、ワンビルのコンセプトと同じ「創造交差点」。
中野さん:「ワンビルのスカイロビーは多様性が交差する場所。ワーカーの皆さんに活力を与え、想像力を掻き立て、人と人、文化と文化をつなぐ役割を果たす、そんなコーヒーを目指します」
「創造交差点」を表現するコーヒー。それはいったいどんな味なのだろうか。
中野さんたちは、現在オリジナルクラフトビールを開発中のワンビルと「あおぞらブルワリー」が集めたアンケート結果も参考にしながら、「ワンビルの味」のイメージを構築していった。
そこで浮かび上がったのは、「エネルギッシュ」「アトラクティブ(魅力的な)」「ライブリー(活気のある)」、さらに「パワフル」「コンプレックス(複合、複雑な)」といったキーワード。
中野さん:「無難においしいコーヒーではなく、ちょっと“尖った”味がワンビルらしいかなと思うんです」
この意見に、スカイロビーを担当する西鉄天神開発本部の岡 麻美さんも大賛成。
岡さん:「ん?何だこれは?と思うくらい、フックのある味がいいですね」
荒木さん:「『私は好き』とか『私はちょっと苦手』とか、コーヒーが会話のきっかけになる。そんな光景が生まれるといいですよね」

コンセプトをもとに、ブレンドのイメージを構築していく中野さん(左)とヘッドロースターの前田和宏さん(右)

ブレンドは100種類以上にもなる豆の中から組み合わせを考える
無限のパターンに挑む、ロースターの新たな挑戦
ブレンドを手がけるのは、REC COFFEEのヘッドロースター・前田和宏さんだ。創業メンバーであり、焙煎も一手に担っている。
ブレンドコーヒーづくりは、まずコンセプトに合う風味をもつ豆を選ぶところから始まる。何種類の豆を使うか、それぞれの豆の量、浅煎り・中煎り・深煎りという焙煎のレンジ(幅)などを変えながら、何パターンもの味をつくり、求める味に仕上げていく。
前田さん:「経験値として、こういうコンセプトだったらこの豆とこの豆で…という組み合わせは分かっている部分もあります。ですが、今回はそんな自分の中での定石を外して取り組んでみたい。西鉄さんとのコラボだからこそ、フィードバックをいただきながら今までにないブレンドづくりにチャレンジしたいと考えています」
REC COFFEEでは豆の種類だけでも100種類以上あるため、量や焙煎を変えながらの組み合わせとなると無限だ。
そこから落とし込まれていく、ワンビル・スカイロビーのフレーバー。
それはきっと、「おいしい」だけではない、出会いや交流やアイデアをもたらしてくれる新しいコーヒー体験になるに違いない。
試作とカッピング(テイスティング)を繰り返す前田さん
焙煎もその豆に最適な度合いを見極める
アルバイトでスペシャルティコーヒーに出会い、とりこに
REC COFFEE創業者で代表取締役社長の岩瀬由和さんは愛知県出身。
もともと、福岡には縁もゆかりもなかった。
「行ってみたいカフェがある」
大学時代のある日、そんな気持ちでふらりと降り立ったのが、のちにREC COFFEE創業の地となる薬院駅だった。
岩瀬さん:「初めて福岡に来て驚いたのは、カフェもアパレルショップも個性的な路面店が多いということ。自分たちのカルチャーをもっていて、そんな福岡がみんな大好きで、自信をもっているんだなと」
そんな土地柄に惹かれて、大学卒業後に移り住む。
もともとカフェに興味があった岩瀬さん、「カフェウィーク」などのイベントにも参加する中で、つながりができた『マヌコーヒー』でアルバイトをすることに。
そこで出会ったのが、スペシャルティコーヒーだ。
岩瀬さん:「正直、初めて飲んだ時はおいしさが分からなくて、薄いコーヒーだなと(笑)。でもお客さまはベリーの風味だとかオレンジのフレーバーだとか言っている。そんなコーヒーの世界に初めて触れて、面白いなと。どんどんとりこになっていったんです」
小さな移動販売店からバリスタチャンピオンへ
福岡に来て漠然と「何かやりたい」と考えていたのが、「カフェをしたい」「コーヒーをやりたい」と明確な目標になっていった。
岩瀬さん:「とはいえ、店を出そうにも先立つものがない。マヌコーヒーでアルバイトしながら、夜は運送会社で働いたり日雇いの仕事をしたり。店舗を構えるほどの資金を貯めるのは難しかったので、まずは中古の車両を購入して移動販売から始めることにしました」
2008年4月、友人の北添修さんと、二人でREC COFFEEを創業。
コインパーキングに誕生した、移動販売の小さなコーヒーショップ。そこは、奇しくも岩瀬さんが初めて福岡を訪れた際に降り立った、薬院の地だった。
美容室の駐車場を借りて移動販売の「REC COFFEE」をスタートさせた岩瀬さん。「コーヒーがおいしくて、何だかおもしろい店がある」と、またたく間に人気が広がった
同時に岩瀬さんは、エスプレッソのスペシャリストを目指すべく、ジャパンバリスタチャンピオンシップ(JBC)に挑戦する。
岩瀬さん:「初出場で120人中43位という結果。でも悔しさはなく、バリスタとしてどんな知識や技術が必要かを勉強できたので出場して良かったと思いましたね」
その後、2011年のJBCで3位入賞、2014年、6度目の挑戦で岩瀬さんは念願の初優勝を果たす。
日本代表となった岩瀬さんは世界でも快進撃。
ワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)2015で7位入賞、2016年には準優勝に輝いた。
吉塚の「REC COFFEE博多ロースタリー」には岩瀬さんのJBC、WBCの受賞トロフィーが並ぶ
岩瀬さん:「スタッフの支えもあって、この時期はもう練習に没頭。優勝はできなかったですが、これ以上何もすることがないというくらいに練習しましたので悔いはなかったです」
2016年、競技者人生に区切りをつけ、岩瀬さんは店舗運営にまい進していくことになる。
生産者との交流、焙煎。アイデンティティが宿る1杯
バリスタチャンピオンシップへの挑戦と成果は、海外のカフェや生産者とのつながりも生み、岩瀬さんのコーヒー観を大きく変えた。
この頃、薬院に路面店を構えるほか、県庁東店、博多マルイ店と出店を続けていたREC COFFEE。岩瀬さんは新たに焙煎事業をスタートする。
岩瀬さん:「それまで僕は、生産者がつくった豆の良さを引き出して最高の状態にするのがバリスタの仕事だと考えていた。でも焙煎をするようになって初めて、REC COFFEEとしてつくりたい味、お客さまに届けたい味ってどんな味だろう?と考えるようになったんです」
スペシャルティコーヒーならではの華やかさ、際立つ個性、アイデンティティ。
今につながるREC COFFEEが目指すコーヒーの世界が確立した瞬間だった。
REC COFFEEがパートナーとする生産者は現在、6か国以上。農園数にするとその3~4倍の数にのぼる。
岩瀬さん:「『次はこんな豆をつくってみよう』なんて言いながら、みんなで面白がっています。生産者やバリスタ、それぞれが高め合いながら、やったことのないことを一緒にチャレンジしていけたら」
福岡の地で芽吹いたREC COFFEEは世界の農園と手を取り合い、ワンビルという舞台でまた新たな挑戦をスタートさせる。
完成間近のワンビルブレンドには、そんな岩瀬さんの、福岡のまちと人への想いが詰まっている。