ONE FUKUOKA PROJECT.
子どもの頃、家族で遊びに来ていたとき、学生時代に書店やレコードショップに通っていたとき。「天神は常にワクワクする場所だった」と語るギンギラ太陽’s主宰の大塚ムネトさん。そんなワクワクを、商業施設や乗り物を擬人化した自らの作品に、しっかりと刻み込んできました。街の変遷を見つめ、天神の知られざる物語に光を当ててきた彼の目には、今の天神はどのように映っているのでしょうか。今回は、天神という街が持つ独特の魅力や、未来への期待について語っていただきました。
ギンギラ太陽’s 主宰
1965年、福岡県小郡市生まれ。幼少期から演劇に興味を持ち、福岡大学附属大濠高等学校の演劇部で本格的な演劇活動をスタート。卒業後は東京・大阪で活動し、「福岡でしかできない、自分にしかできない表現にたどり着けば、福岡で表現者として生きていけるはず」と考え、福岡に戻る。1997年、演劇ユニット「ギンギラ太陽’s」を設立。作・演出・出演・かぶりモノ造型を全て手掛け、地元にこだわった作品をつくり続けている。
公式サイト:https://gingira.com
子どもの頃から、就寝前にその日あった出来事を一人で再現して楽しんでいました。たとえば、学校で先生に怒られたときは、怒っている先生と怒られている生徒を一人二役で演じたり、映画やテレビで見た主人公になりきってみたり。物心ついた頃から、自然に演じることをしていましたね。休日になると、家族と天神に遊びに来るのが楽しみでした。駅に降り立ち、始点の車止めを見たとき、「ここから線路が始まっているんだ」と感動したことを今でも覚えています。
高校時代は通学途中に天神があり、天神に来れば、本やレコード、映画など、ワクワクするものに出会える場所でした。特に印象深かったのは、天神コアができたときです。1フロア全部が「紀伊國屋書店」だったことがとても嬉しくて、日曜日は朝から夕方まで、本を片っ端から読んでいました。そして、年始にはお年玉を持参して、買えなかった本を買えるだけ購入。両手に紀伊国屋の紙袋を持って帰るのが幸せでした。
福岡大学附属大濠高校で演劇部に入り、本格的に芝居に取り組み始めました。「芝居で生きていけたらいいな」と漠然と意識し始めたのもこの時期です。地元・福岡で活動したい気持ちはありましたが、他の土地を知らずに福岡で始めるのは井の中の蛙のように感じ、まずは上京することに。東京ではさまざまな劇団に関わり、大阪でも活動。その結果、「福岡でしかできない表現、自分にしかできない表現にたどり着けば、福岡で表現者として生きていけるはずだ」と考え、福岡に戻ることを決めました。しかし、表現の方向性が見いだせず、10年ほどもがいていましたね。ちょうどその頃、西鉄福岡駅(現・西鉄天神(福岡)駅)が南に移動し、ソラリアプラザやイムズ、ユーテクプラザなどが相次いで開業。流通戦争が盛り上がっていました。「この街を題材にすれば、福岡の物語として成立し、僕にしかできない表現さえ見出せれば、2つの条件を満たせる」と考えるように。一方、東京や大阪では造型のアルバイトをしていた経験もあり、かぶりモノを造ることができたため、福岡の街を題材に、かぶりモノを使った作品を発表し始めました。
ギンギラ太陽’sは、商業施設や乗り物を擬人化した作品を数多く作ってきました。最初は勝手に固有名詞を使っていたため、怒られるのではと不安でいっぱいでした。ある日、西鉄本社に呼ばれ、怒られるのだろうか?と覚悟していたところ、「新しくできる西鉄ホールで公演をやらないか」という予想外の話をいただきました。僕たちを快く受け入れ、応援し続けてくれた天神の皆さんには、感謝の気持ちしかありません。現在、天神ビッグバンによって、天神は大きく生まれ変わろうとしています。新しいビルが建ち、公共空間も増え、街はますます活気を帯びていきます。しかし、再開発が進む中でも、さまざまな人にとっての「心地よさの多様性」をしっかりと維持してほしいと願っています。心地よさは立場や人それぞれに異なります。ショッピングが心地よい人、美味しいものを食べることが心地よい人、親子で遊べることが心地よい人――観光客も地元の人々も、世代や立場が違う人々が、それぞれに心地よさを感じられる場所であってほしいと願っています。
「この街を訪れる人には、ぜひこの街の当事者になってほしい」と大塚さん。ご自身も、ギンギラ太陽’sの活動を通じて天神で表現の場所を見つけ、西鉄ホールをホームグラウンドに新しい作品を生み出してきました。この街で自分がどうありたいのか、この街で何をしたいのか。当事者として関わることで、この街をさらに楽しめると感じた取材でした。最後に大塚さんから一言。「次のワクワクを生み出す側になってください。そして、それを僕に取材させてください」。皆さんのワクワクが、ギンギラ太陽’sの作品に登場する未来があるかもしれません。