ONE FUKUOKA PROJECT.
1990年から30年以上に渡り、福岡で暮らし続けているニック・サーズさん。その間、福岡の街はますます活気を増し、さまざまな面で発展を遂げてきました。一方で、その成長の過程で失われていくものや、新たに浮かぶ課題も少なくありません。彼が福岡に移り住んだ当初から現在までの変遷を振り返り、これから福岡の街がどのように成長し、どんな課題を解決していくべきかについて、ニック・サーズさんに話をお聞きしました。
有限会社フクオカ・ナウ 代表取締役
1960年、カナダ・トロント生まれ。1985年に来日し、東京・大阪での生活を経て、1990年にソフト開発会社に就職して福岡へ移住。その後、印刷会社に英語のタブロイド紙の編集長として就職。1998年に独立し、「Fukuoka Now」創刊。2009年からは外国人旅行者向けの観光地図「Now Map」を創刊し、2021年からは動画チャンネル「Kyushu Live」をスタートさせるなど、福岡と九州の魅力を世界に発信し続けている。
バックパッカーとしてアジアを巡った後、以前から興味があった「禅」を学ぶために、1984年に来日。東京の禅寺に1年間住み込みで勉強し、その後、東京や大阪で会社員として働きました。一度帰国しましたが、再び日本で暮らしたいと思い、就職活動を開始。ソフトウェア開発会社への入社が決まり、てっきり東京で働くと思っていたのですが、配属先は本社がある福岡だったのです。こうして1990年から福岡での生活が始まりました。
当時、その会社は薬院にあり、同僚からランチに誘われた際、マイカーで大名まで連れて行ってくれたのです。ランチのためだけにクルマを出すなんて、東京時代は考えられなかったので、驚いたことを今でも鮮明に覚えています。福岡は、東京や大阪と比べて物価が安く、自宅と職場の距離が近いため通勤も楽で、自然も豊かで、すぐに気に入りました。Quality of Life(QOL=生活の質)が非常に高い都市だと感じ、ここに長く住むかもしれないと考えるようになったのです。
福岡で暮らし始めた頃、天神周辺にはイムズやソラリアプラザ、ホテルイルパラッツォなどが建ち、街は大きく変化を遂げようとしていました。一方、暮らしを楽しむためには良い仕事を見つけないといけないと考え始めていたとき、東京や大阪で愛読していた外国人向けの情報源が福岡にないことに気づきました。「なければ自分で創ろう」。そう思い立った私は、地元の出版社に企画を持ち込み、1993年に福岡のエンターテインメントやイベントなどを掲載する、九州初の英語のタブロイド版有料情報誌「RADAR」を創刊しました。しかし、長くは続かず、ほどなく休刊に。情報誌の発行を諦めきれず、1998年に無料の月刊情報誌「Fukuoka Now」を創刊しました。当時、外国人に人気があったのは、イムズでした。最先端の情報がイムズに集まり、また、「ピエトロ」のサラダバーは非常に人気がありました。今でこそ輸入食材を扱う店は増えましたが、当時はあまりなく、新天町の「レイメイ」にもよく足を運んでいたことを覚えています。
福岡の街にとって、商業施設やビジネス街、高級ホテルができることは重要だと思います。しかし、どんなことも、バランスが大切ですよね。世界的に展開しているブランドばかり増えると、インディペンデントのお店が出店しづらくなります。地元の若い人や移住者など、さまざまな人が小規模にスタートアップできる場所があれば、天神はもっと楽しくなると思います。また、交通面の整備も課題です。特に中心部は渋滞しすぎ。週末などは車を制限してもいいかもしれません。福岡はコンパクトな街で、自転車での移動がとても便利です。シェア自転車などは機能していますが、自転車に乗る人のマナーやシステムがまだ整っていません。道路整備と利用者教育の両方から、さらなる改善が求められます。現在、福岡にはインバウンドの観光客が多く訪れていますが、彼らからは「ゴミを捨てる場所がない」「ベンチなど休憩するスペースが少ない」という声がよく聞かれます。さまざまな課題があるかと思いますが、一つひとつ解決し、福岡が世界中から評価される街に発展することを願っています。
現在、「Fukuoka Now」はWebを中心に、福岡の最新情報やイベント、観光スポットなどの情報を英語と日本語で提供しています。また、外国人観光客向けに「Now Map」を発行し、歩いて楽しめる福岡の魅力を広く伝えています。さらに、大濠公園のボートハウス西側にある観光案内所「Fukuoka Now Park Studio」では、福岡の最新情報や「Now Map」の提供を通じて、外国人観光客のサポートも行なっています。今後は、少人数を対象にしたディープな内容のツアーの開催も企画中とか。精力的に活動を続けるニック・サーズさんの今後の活動に注目が集まります。